質問上手、それはフリーランスリンギストにとって超重要スキルだ!
ぼくの世代(旧ドラえもん、ドラゴンボール、ちびまる子ちゃん)は、小学校のときから、先生たちに「何かわからないことがあれば質問しなさい」と言われても実際に質問すると「そんな質問するな」とか「それはもう話した」と言われたものだ。ぼくの世代には「質問しちゃダメ」って染みついている人もいると思う。
しかし、フリーランスの翻訳者になったからには、徹底的に質問を上手に行えるようにならなければならない。質問せずに推測で訳していると失敗する。
フリーランス翻訳者になりたいワナビー
駆け出しのフリーランス翻訳者
なんで質問しないの?
フリーランス翻訳者になるということは、翻訳のプロになるということだ。「知らなかった」、「聞いてない」は言い訳にならないぞ!
「だって〜だもん…」で済んだら警察はいらない
レビューをしたり、QAを行っていると、「え、なんでこんないい加減な訳し方しているんだ」と思ってフィードバックを書くことがある。その反応が「曖昧な表現なのでわかりづらかった」、「ちゃんとした資料がないのでわからなかった」、「説明を受けてない」なんてこともあったりする。
誰かのせいにしてもダメ
確かにクライアントによっては、説明や参考資料が不十分なこともある。原文の書き方がわかりづらいこともある。原文が間違えていることさえある。
だからといって、曖昧なものをそのままほったらかして、曖昧な訳を打ち込めば、どうなるかは明らかだ。おめでとう、さらに意味不明な文書の出来上がり。
伝言ゲームのように、母国語だけの伝達でさえ誤解が生まれるのに、翻訳の最初の段階でこんなことをしていてはちゃんとした意味が伝わるわけがない。
仕事に責任を持つということは、その結果に責任を持つということだ。推測だけで仕事をこなしてはいけない。不足があれば、こちらから質問するのは当たり前。ヘタな言い訳をすれば信用を失うだけだ。
じゃあ、何を質問すればいいの?
プロジェクトの説明を熟読し、自分で調べたが、参考可能な情報だけでは適切な判断を行えない場合は質問しよう。
質問すべきことには、以下のようなことが含まれる。
- プロジェクト全般
- 特別な用語
- 参考資料
- わかりずらい原文
- 既存訳について
プロジェクト全般
プロジェクト全般に関する質問には、たとえば、ワードカウントの不一致、ファイルの不足(破損)が考えられる。この質問は早いうちに行う必要がある。しばらく時間が経ってしまうと、調整や変更が難しくなる。
特別な用語
技術文書の翻訳を行うともなれば、これまで見たこともないような用語に出会うこともある。また、見たことのある用語でも、使われ方によっては宇宙語に見えたりするものだ。これも「プロの翻訳者のくせに恥ずかしい」などと意地を張らずに質問したほうがいい。
参考資料
クライアントによっては、原文テキストだけを送りつけてきて丸投げしてくることもある。技術文書など、製品マニュアルや、機械操作、名称など、視覚的な資料なしでは仕事がやりづらい。この場合も、遠慮せずに早いうちに資料を要求しよう。
わかりずらい原文
依頼される仕事のすべてが、文法的かつ機能的に書かれているとは限らない。中には、あまり腕のよくないライターが書いたものもある。その場合は、どの部分が、どのような理由でわかりづらいのかを説明して、意味を質問しよう。
既存訳について
「既存訳がスタイルガイドと一致していない」、「翻訳メモリの既存訳に一致しないものが数件入っている」。これはよくあることだ。勝手に自分で決めてしまわず、クライアントに連絡して、どのように対処するかを質問しよう。
仕事を受ける限り、翻訳スキル以外で自分で決めてよいことは存在しない(すべてお任せしますと言われれば別だが)。
質問すべきこととは「自分で決めてはまずいこと」。
じゃあ、どうやって説明すればいいの?
詳細かつ明確に、礼儀正しく、相手のことを考えて質問しよう。
質問の方法は通常、メールまたはクエリー表を使って行う。プロジェクトマネージャーに直接質問を行うのであれば、メールを送ればいい。ただし、クライアント側や技術者に対して質問を行う場合は、クエリーシートを使うのが普通だ。このシートは翻訳会社で用意されている場合もあるし、クライアント固有のものもある。なければ、自分でテンプレートを用意しておくと、いざというときに役立つ。
質問は内容が明確で、相手に合わせた聞き方である必要がある。そして礼儀正しく行おう。
詳細な質問を行う
「○○という用語の意味がわかりません」。これは詳細な質問ではない。質問する場合は、「何が」と「なぜ」を明確にし、自分でどのようなリサーチを行ったのかを明示する必要がある。
例を挙げてみよう。「○○という用語は通常、XXの意味で使われますが、XX製品のXXシステムでは、意味で使われているのでしょうか?過去バージョンのマニュアルを参照しましたが、新しいシステムのためわかりませんでした。参考になる画像やスクリーションショットを送っていただけないでしょうか?」
質問相手のことを考える
質問する相手について考えることも重要だ。相手が日本語訳に精通していないこともある。「相手が翻訳のことなど考えもしないエンジニアだったら?」、「多言語担当で日本語を理解できない人だったら?」。相手について把握しておかなければ、適切な質問を行って、必要な回答を得ることは難しい。
セグメントXXの「from」の意味はなんですか?
自社のシステムに詳しいエンジニアがこのような質問を受けても、「from」の意味は「開始日」ってことだよ」と言ってくるだけだろう。そこでまた、「開始日」って何の開始日?と質問する…。こんなやりとりを続けていたら納期が遅れてしまう。
質問するのなら、翻訳者は「なぜ、fromだけではわからないのか」、「他にどんな情報が必要なのか」、「実際にはどのように使われるのか」という点をしっかり伝える必要がある。
相手が日本語を理解できないのなら、日本語ではどうしてそれが問題になるのか。そして、どうすればはっきりするのかを伝える必要がある。
礼儀正しく質問する
いくら詳細に質問を行っても、当たり前のように質問を投げつけるようでは、プロジェクトを進めていく上で信頼を築くことはできない。顔が見えないからこそ、言葉の使い方には気をつける必要がある。
何か頼むときは「おねがいします」。何かしてもらったら「ありがとうございます」。自分が勘違いしていたときは「失礼いたしました」。ぜんぶ子どものころ習ったことだ。
格式張った敬語や謙譲語が重要なのではない。相手を尊重した「敬意」こそが重要なのだ。
翻訳者なら、自分がわからないことを文章で、相手に合わせて詳細に、そして礼儀正しく行うスキルを身につけよう。
ありがちな例
ソフトウェアのUI翻訳は説明や資料が欠けていると投げ出したくなるくらい大変だ!
ユーザーインターフェースの翻訳は本当に骨が折れる。資料がちょっとでも不足していると、全く意味がわからない。
既に翻訳者をしばらくやっている人なら「あ〜、あるある」と思うだろう。そうだ、こんな単語が羅列して何の説明もなく送られてくることも普通にある。
これを質問せずに訳したら大変なことになるのは言うまでもない。
このような問題の質問を行う場合は、これが、いつ、どこで、どのように、使われてるのかを質問しなければならない。そして、最も重要なのがスクリーンショットなどの画像を送ってもらうことだ。
これはやめて
質問は重要だと言ったが、なんでもかんでもやればいいわけじゃない。やり方次第では信用を失うことになるぞ!
- 既に説明にあることを質問する
- 自分で調べてないのに質問する
- 同じ質問をする
これらの内容には、1つの共通点がある。それは「自分は無能です」と宣言していることだ。
説明にあるよ、それ
指示や説明をきちんと読んで理解していない状態で質問するのは、「指示を読んで理解する」という基本中の基本をクリアできていないことになる。
リサーチ能力、ないとダメ
「わからないことがあればすぐ質問」。これでは、リサーチ能力という翻訳者にとって最も重要なスキルが欠けていることを自分で暴露するようなものだ。こんなヤツと仕事をしたいと思うクライアントはいない。
ぼくはアホです
「あれ、前にも質問したっけ?まぁいいか」。これも前に挙げたものと同様、自分がアホでることをさらけだしているようなものだ。質問するときは、考えて質問しよう。思考停止はダメだ。
質問はランダムにするのではなく、よく考え、まとめてから行おう
最後に
ベテラン翻訳者になるには、プロジェクトを正確に理解し、不足情報をすぐさま書き出して、それを相手に合わせて適格に質問を行えるコミュニケーション能力が必要だ。
「在宅翻訳者だから人間関係は不要」、「人に会わなくていいから楽」なんて言われるが、会わないからこそ、面と向かって会話しないからこそ、文章を駆使して質問を理解してもらわなければならない。そして、適切な回答をもらえるように導かなければならない。翻訳者の仕事は「翻訳するだけ」ではないのだ。
コメント