翻訳者って、どんな人に向いているの?また、一般的に求められるスキルって何なの?こういった疑問を持ってGoogle検索を行う人も少なくないだろう。
勉強する気があって、時間と労力の投資を行う気があれば「翻訳者には誰でもなれるチャンスがある」といつも書いてる。しかし、そうは言っても向き不向きというものは必ずある。
これは翻訳者に限った話ではない。水恐怖症では、水泳のコーチの職業は向いていないし、子ども嫌いには幼稚園の先生は向いてない。
翻訳者という職業に興味がある人
「翻訳者に、おれはなる!」という人
フリーランス翻訳者に向いている人の特徴
まずは向いている人の特徴から話そう。
一人で働ける人
ぼくは、これまで在宅翻訳者であろうとコミュニケーションを文面で上手に取れない人はダメだと書いてきた。たしかに、コミュニケーション能力も必要だ。しかし、実際には大半の作業を一人でこなすことになる。これは避けられないことだ。
たった一人で部屋にこもって、何時間も何日間も過ごすなんてことはざらにある。こういうのに耐えがたい人は残念ながら向いていない。
もちろん、気分転換や運動で外にでることは必要だ。あくまで「全般的な作業は、ほぼすべて一人でやりますよ」ということ。物理的なチームプレーを好む人にはつらいかもしれない。そして、一人をロンリーだと思ったらやっていけない。
長時間座って作業できる人
翻訳者の仕事は通訳さんとは違い、ほぼすべてがデスクワークだ。一般的な事務を経験したことがあれば問題ないが、営業や外に出る仕事に慣れている人には新しい世界になるだろう。しかも、ほぼ同じ部屋からでないことが多い。これにも耐えられなければちとキツい。
デスクワークといえば、会社員なら自分のデスクが無料で会社に提供される。しかし、フリーランスの翻訳者となればそうもいかない。「じゃあ、安い適当なの買っておけばいいや」と思ったら危ない。
デスクと椅子は選び方を間違えたり、ケチって安物を買えば、自分の体に悪影響となって返ってくる。いくら仕事をこなしても、体を壊してしまっては元も子もない。
話を戻すが、費用をかけて良い机と椅子を用意し、それにかじりつける根性と忍耐力が必要だ。一番いいのは、それを自然にできることだ。そう、ゲームに没頭して、数時間もプレイし続けられるように…。
ぼくは、学生時代、ピアノを専攻していた。だから、ずっと座って1日何時間も練習することには慣れきっていたのでなんとも思わなかったが…。
大量の文書を読むのが苦にならない人
翻訳者の仕事は、読んで、考えて、それを別の言語で表現することだ。つまり、読んで、書くことが作業だ。時には、参考資料やオンラインリサーチで得た文書などを短時間で読まなければならない。この「読むこと」が嫌いな人や「苦になる」人にはちょっときつい。
これはけっこう重要なポイントで、「語学力があれば翻訳ができる」という誤解を解く鍵でもある。翻訳者にとって、原文は理解できればいい。別に、それをうまくしゃべって説明する必要はない。それをやるのは通訳の仕事だ。翻訳者は耳と口ではなく、目と手を動かす必要がある。つまり、大量の文字を処理して、それを訳文で書いて表現することなのだ。
読書が好き、調べるのが好きという人なら、きっとこれが自然にできるはずだ。
翻訳者は多くの時間を一人パソコンの前で過ごし、調べ物や読解に多くの時間を費やす。このスタイルがダメであれば、適正以前の問題だ。
フリーランス翻訳者に求められるスキル
適正だけじゃダメ。スキルは適正の代用にはならないので、なければ開発しなければならない。
リサーチ能力
「自分の得意な分野の翻訳を手がけるのだから、リサーチなどそれほど重要でないのでは?」。
これは大きな勘違いだ。どんなに得意な分野で勝負をするにしても、必ず知らない世界が待っている。
いや、ほぼ毎回の案件で知らないことが出てくると言えるほどだ。こうなると、オンラインでのリサーチが不可欠になる。
現代翻訳者はGoogleを駆使しなければならない。オンラインの情報は、ゴミのようなものも非常に多い。
ここで、使える情報、信頼できる情報、使ってもいい情報を見分け、それを短時間でリストアップできなければならない。これができるようになるには、それなりに時間もかかる。
信頼の薄い情報を信じて使ってしまうと、思わぬミスにつながってしまうことがある。そうなれば、信用を失うことになるので、「情報の目利き」を養うことが必要だ。
リサーチ能力を鍛えるには、自分で何かテーマを決めて、それについて徹底的に調べ、それを1ページのレポートにまとめてみるといい。1ページくらいなら苦にならないし、簡潔にまとめるという能力も身につく。そして、目利きを養うには、出版されている書物を読むことだ。
機械翻訳というテーマを例に考えてみよう。
機械翻訳には、複数の種類がある。
統計、ルールベース、ニューラルなど。
それぞれの特徴、それぞれのメリット、デメリットを調べて書き出す。ここでは、インターネットの情報だけに頼るのではなく、本やセミナーなどの情報も参照する。
そして、現在はどのようなアプローチが主流で、これからどういう方向に向かうか…。
このようにして、書いてみる。スタイルや書き方は何でも構わないので、とにかくやってみることが大事だ。これに関しては、誰も文句は言わないのだから。
問題解決の能力
会社員であれば、自分の仕事意外の問題は他の人に解決してもらえる。IT関係の問題が起これば、社内ITに任せられるし、施設の不具合にはそのエキスパートがいる、もしくは外注で頼める。
しかし、フリーランスの翻訳者であれば、あらゆる問題を自分で解決しなければならない。翻訳に直接関係のあることであれば、プロジェクト全体の問題、用語の問題、原文の問題などが考えられるだろう。
また、技術的な問題も十分発生し得る。パソコンが壊れた。ツールがきちんと動作しない。クライアントが送ってきたファイルが破損している。送られてきたファイルが足りない。
こういった問題が発生したときに、「問題が発生したが、自分のせいでないから何もしない」という姿勢では、翻訳者は務まらない。
プロジェクトやクライアントが送ってきたものに問題があるのであれば、プロジェクト開始の時点で問題を見つけ出し、早めに報告して解決しておく必要がある。
技術的な問題であれば、自分だけのトラブルシューティング方法や予備マシン、予備ツールなどを用意しておく必要がある。顧客にすぐに連絡できなくても、別の手段で仕事を継続しておくことができるように対策を立てておかなければならない。
こういった問題解決を、必要なときに、すぐに実行できなければフルタイムの翻訳者は務まらないと言える。問題が発生するたびに手を止めていては、そのうち誰も相手にしてくれなくなる。
このスキルを養うには、「想像」することが不可欠だ。「こんなことが起きたら、こうしよう」という策を考えて、準備しておく。頭の中で訓練しておくだけでも、いざという時の行動に大きな差ができるものだ。実際、学校や会社では避難訓練というものをやる。災害が起きた時に「初めてじゃない」って心構えを持たせるために。
ライティングスキル
「翻訳者の仕事は書くことである」。これは、ぼくがいつもいつも、しつこく主張していることだ。翻訳者は原文(英日なら英語)を理解して得意になって自慢する仕事じゃあない。原文は理解できていて当たり前、それプラス、その意味、そしてその奥に潜む隠れた雰囲気を訳文において自然に書き出すというスキルが求められる。
書くスキルに自信がないのなら、毎日何でもいいから書いてみるといい。日記でも、ブログでも、随筆でも、なんでもいい。そして、時間をおいてから自分で読んでみて添削してみる。それだけでも書く訓練ができる。
それに、いつも書いていることだが、本を読むことも大事だ。読書家になろう。本は、比較的クリーンな情報が詰まっている情報の宝庫だ。インターネットと比べてという意味でね。
図書館に行けば、無料でいくらでも本をかりることができる。これを使わない手はない。
翻訳者に求められるのは、原文の理解はもちろん、湧き上がる疑問に向き合い、調べて解決し、そして”翻訳”するというスキルだ。
さいごに
「うげー、スキルが足りない」と思ったって?大丈夫。少なくとも、あなたは無知じゃない。必要なことを知ることができたのだ。そう思ったら、ぼくに感謝して記事をシェアして、絶賛してもバチはあたらないよ。
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