オンライン講座や学校に頼らずに翻訳スキルを開拓したい、アップしたい….。そんなニーズは少なくないハズ…。一番手っ取り早く、安価で効果的な方法は本を読むことだ。
翻訳者にとって重要なスキルのひとつ、自己学習。誰かに教えてもらうのではなく、自分で学びを求めて適切なソースを探ることができなければならない。プロの翻訳者となれば毎日、無数の疑問や問題に遭遇する。そこで、ひたすらリサーチを行う。これが翻訳者の日常なのだ。「本を読んで自分で学び、それを実践する」という姿勢は早いうちから身につけておく必要がある。
本記事の対象者:
- 駆け出しの英日フリーランス翻訳者
- 翻訳者志望者
この記事を読むとどうなるか:
- 英和翻訳の勉強に使える本を知ることができる
- 講座やコースの受講なしでも翻訳を勉強できる
まずは日本語の文章力
英日翻訳者の仕事は「日本語を書くこと」だ。経験の浅い翻訳者のトライアルを採点していてよく気がつくことがある。原文は理解できていそうでも、日本語が流暢でない。「日本人なのだから日本語ができて当然だろう。何もそんなに難しいことではない」と思われるかもしれないが、この問題は意外と大きい。言ってしまえば、これができなければ話にならない。「英語ができれば翻訳ができる」だとか、「英会話が達者だから翻訳ができる」と誤解されることがある。実際には、「英日翻訳者は英文を理解できて当たり前、その上で流暢な日本語での表現力」を求められる。
そこで機能的な日本語を書く力をつけるための本を紹介する。
『日本語の作文技術』講談社
本多勝一
この本の良いところは、わかりやすく読みやすい文章を書くにあたり、重要となる文法をピンポイントでピックアップして説明しているところだ。「少しの変更でこんなにも変わるのか」といったような体験を得ることができる。
「漢字とカナの心理」という章では、文書の視覚要素について書かれている。この部分はテキストで多様な表現を行う必要があるクリエイティブ翻訳のスキルにも役立つと言える。
「句読点のうちかた」では、文章を読みやすくするためだけでなく、意味が明確に伝わるようにするための注意点や具体例が書かれている。これも翻訳スキルに重宝する内容だ。ぜひ本棚に入れておきたい1冊だ。
『作文の技術』朝日新聞出版
外岡秀俊
元朝日新聞局長の外岡氏の本。この本は65個のトピックで書かれている。「投稿文」→「改善文」という添削形式が用いられており、玄人の視点だけでなく、素人の観点からも考察できる。前書と同じように、少しの改善で文章が見違えるという「目からウロコ」を実感できる。
この本は、「基本編」、「応用編」、「実践編」に大きく分けられている。
基本編での「簡潔な文章を書く」では、無駄を省くスキルを学ぶことで、読みやすい文章を書くスキルを習得できる。
応用編の「伝わる文章を書く」では、文章を簡潔にした上で、「どのような言葉を選び、どのような言葉で補助することで伝わりやすくなるか」という点を説明している。
最後の実践編の「他人の文章に学ぶコツ」では、「これまでの内容をいかし、そのスキルを考慮した上で他人の文章を読み、そこから学びを得る方法」を示している。文章の改善についても触れているが、複雑な変更ではなく、すぐに実践できることが多く書かれている。つまり、翻訳スキルをただちに改善することが可能となるわけだ。
これら2冊の主旨は、「伝わる文章を簡潔かつ機能的に書くこと」だ。これは、日本語を書く翻訳者のコアスキルとなる。「日本語を勉強せよ」といっても、複雑な文法や漢字を学べと言っているのではない。特別な論文や医学書などを訳す場合を除き、産業、IT、ビジネスなど一般的な翻訳を行う場合、一般的なユーザーを対象として書かれていることが多い。つまり、語彙や文法に優れた文章ではなく、普通の読み手に理解してもらえる、わかりやすい日本語を書く能力を学ぶ必要がある。
ホンヤクのおべんきょう
さて。日本語ばかり勉強していても始まらない。翻訳者であるのだから、当然、翻訳技術を学ぶ必要がある。実務翻訳者の訳は、学生のころ学校で課題として求められるものとは違う。
では、何が違うのか。これを明確にし、実践できなければ、支払いに値する訳を生み出すことはできない。ただ単に英語を日本語に変換するだけならば機械翻訳やバルク翻訳で十分なハズ…。そのスキルをつけるための本を紹介する。
初級〜中級
『翻訳スキルハンドブック』
駒宮俊友
翻訳者兼講師による本。まだ翻訳を勉強したことのない人が書きそうな訳文や学生のテキストを例に出し、そこから改善の方法などを示している。違和感のある訳から流暢な訳へのプロセスも順を追って書かれている。この1冊でも初級コースを受講するのに匹敵するほどの内容が書かれていると言える。
また、英文を訳すということだけに焦点を合わせず、翻訳者としての作業プロセス「原文分析スキル」、「リサーチスキル」、「ストラテジースキル」、「翻訳スキル」、「校正スキル」についても順を追って説明しているため、翻訳者の姿勢を学ぶこともできる。
特定の構文を訳すためのコツもいくつか紹介されている。これもまだ右も左もわからない翻訳者がすぐに使うことができる知識となる。これらが自分のものとなれば、応用して発展させて自分の言葉で表現できるようになるだろう。
中級〜上級
『英文翻訳術』ちくま学芸文庫
安西徹雄
非常に小さなサイズの本だが、その内容は深い。安西氏も講師を務められている(いた)ということで、学生の実際の訳を添えた説明も多く行っている。
「こんなときは、こう訳すと比較的うまくいく」、「こんな原文の構造には、こういう訳文のバリエーションを考えることができる」、「英語特有の訳しづらい原文には、こういう言い換えが可能で、そうすると訳しやすくなる」というような、ただちに実践で使えるマニュアル的な要素が多くつまっている。つまり、「読んですぐ実践することで即座のスキルアップを望める」、そんな本だ。
個人的な意見を言えば、オンライン講座や学校に○十万というお金を払わなくても、これら2冊を勉強するだけで相当なレベルアップを期待できる。しかし、翻訳者は常に勉強しなければならないことを忘れてはならない。
自分でも本を探そう
本はコストパフォーマンスに優れた学習手段だ。紹介した以外にも日本語に関する本や、翻訳に関する本は山ほどある。自分で書店などに行き、パラパラめくって「これは勉強になりそうだ」というものを選ぶのもよい。
また、自分が翻訳するテキストの分野でも選ぶべき本が決まる。
クリエイティブ翻訳であれば小説。産業翻訳であれば仕様書。ITであれば、システム管理やプログラミング言語の技術文書など。
個人的に分野に関係なく重要視している本がある。それは論理学の本だ。産業・IT翻訳では、手順を明確かつ論理的に表現しなければならない。論理的な思考もそうだが、論理的なテキストをかきだせなければ説得力が薄いものになってしまう。
本の数は無限大、常に本を読んで勉強しよう。
最強の公共施設、図書館
本で学習するというのは非常に安価で手っ取り早いと言ったが、すべてを購入する必要はない。図書館に出かければ、たくさんの役立つリソースに出会うことができる。
無料でリソースをつかいまくれ、静かに読書に没頭できる場所。それが最強の勉強場所、図書館なのだ。
図書館は受験生だけのものではない、誰だって無料で使える。これを使わない手はない。
さいごに
いかがであっただろうか。オンライン講座や学校に行かなくても十分に翻訳の勉強が可能であることをわかっていただけただろうか。
本を読んだら必ず実践しよう。何も実務じゃなくてもいい。どっかから未訳のテキストを拾ってきて好きなように訳してみるといい。それだって立派な翻訳だ。
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