トライアルは頑張るな!

don't work too hard

駆け出しの翻訳者や翻訳者志望という人たちを見ていると、多くの人たちがトライアルに一喜一憂している。また、トライアルの準備に非常にこだわったり、トライアルを添削するような人たちまでいるようだ。

ぼくが言いたいのは「手を抜いてトライアルを受けろ」という意味ではない。頑張れば頑張るほど合格してから大変になるということだ。

結論を言ってしまうと、トライアルは、いつもよりちょっと慎重になるのはかまわないが、自分の通常の翻訳能力でささっと受けるべきだ。

トライアルの納期

deadline

トライアルの納期にはワード数が数百ワードでも、2〜3日が設定されていることが多い。もちろん、もっと長い場合もある。1週間とか。中には期限なしという場合さえある。ただし、誤解してはならない。たとえば、500ワードで2日というトライアルは、「まる2日かけて500ワードを翻訳せよ」という意味じゃない。

多くの翻訳者たちには、取り込み中の案件が常にあるものだ。そこで、無料であるトライアルに時間を割くのが難しくなる。だから2日という時間が設定されている。

駆け出しの翻訳者やワナビーの多くはここを誤解している。

中には時間を指定して、「〜時にトライアルを送りますので、1時間以内に送り返してください」といったものもある。個人的にはこちらのほうが技量を測りやすいと思うが、これをやるベンダーはそれほど多くない。

時間が多めに設定されている理由は、「トライアルだから時間をかけて慎重にゆっくりやってね」ではなく、「忙しいでしょうから、2〜3日で時間をとってトライアルを受けてください」だ。

トライアルを頑張りすぎるとどうなるか

work too hard

まる2日かけてリサーチを行い、自分が思う最高の翻訳を提出したらどうなるか。それで落ちればまだマシだ。合格すると大変なことになる。

翻訳会社やベンダーは、あなたが提出した品質を評価して合格を出している。つまり、これから「トライアルで提出したものと同じ品質のものを納品する」ことが期待されるわけだ

500ワードなど、1時間ほどで作業するのが普通だ。まる2日かけて500ワードなどでは仕事にならない。そうなると、たとえば1500ワードが割り当てられ、1日で提出してくださいと言われると、もう大変だ。ものすごく苦労することになる。もしくは、ヒドイ翻訳を提出して怒られて、登録解除になることさえある。きをつけよう。

翻訳者のゴールはトライアル合格じゃない

think

なぜトライアルを受けるのか、なぜベンダーがトライアルを要求するのかを考えてみよう。それを考えれば、「とにかくトライアルに合格」とは思わないはずだ。

トライアル対策とか、添削とか、そういったことを無理矢理勉強するものではない。

トライアルとは、自分の技量をベンダーに示し、その示した技量でベンダーとパートナーシップを結び、これからコラボしていくための儀式だ。無理な背伸びをすれば、翻訳者にとっても、ベンダーにっても、よい結果にはならない。

トライアル合否に一喜一憂するな

happy and sad faces

トライアルに不合格になったからといって悲しむことはない。もっと勉強して、またトライすればいい。不合格だって、そこでゲームオーバーじゃない。また、合格したからといって喜ぶのはまだ早い。あなたは、テストに合格しただけ。会社員なら入社が決まれば1日目から給料がもらえるが、翻訳者はそうはいかない。仕事を行って、納品して、それにOKが出なければ1円ももらないのだ

言ってしまえば、トライアルなんてものは余裕で合格するくらいでなければ、そのベンダーからの仕事はしっかり続けていくことなどできない。

添削してもらう人もいるようだが、それで合格するのはとんでもないことだ。今後仕事を行うときにも同じように添削してもらって納品しなければ、その品質を出せないということになる。そんなの現実的でないことは明らかだ。

トライアルに不合格になっても、きちんとコミュニケーションを取るのを忘れてはならない。不合格と通知した途端に音沙汰がなくなる人も多い。しっかりお礼を言い、挨拶をしておくのは人としてのマナーだ。そうすれば、また数ヶ月後に挑戦させてくれることだってある。

トライアルでやるとよいこと

check list

「トライアルは頑張るなと言っておいてなんだよ」と思うかもしれないが、まぁ落ち着いて読んでほしい。トライアルは確かに翻訳スキルを見るための試験だ。しかし、この翻訳を採点するのは人間だ。つまり、なんらかの感情的な影響を受けるということだ。つまり、丁寧で気が利く仕事ができることをアピールするとよいこともある。

こんなことがあった。ぼくがトライアル採点を行ったときのことだ。募集してきた翻訳者をAさんとしよう。Aさんのトライアルは結果的には不合格だった。詳しくは覚えていないが、翻訳はそんなに悪いわけではなかった。ちょっとしたマイナーエラーが重なったりして、80点が合格ラインであったがAさんのスコアは75点で不合格。ところが、最終的にベンダーからAさんには仕事を頼むという結論が出た。

Aさんはいろいろと翻訳以外のことにも気をつかっていた。そのトライアルでは、ファイル名の指定はなく、トライアルファイルは「test.sdlxliff」のようなものであった。しかし、Aさんが提出したファイルは、「TOKUGAWA_IEYASU_trial_Jan_1_2019.sdlxliff」などとわかりやすく変更されていた。

また、テキストの中に「サポートの時間が09:00〜 17:30まで」というような文があった。これはソーステキストの現地時間(ニューヨーク時間だったと思う)であったが、これは日本のサポート時間に変えるべきかとか、日本時間に変換すべきかというコメントが添えられていた。

また、メールの書き方も簡潔でていねいであった。

採点者やベンダーだって人間だ。気の利く人には良い印象を持つ。この翻訳者のスコアは十分でなかったが、結果として仕事を頼むということになった。スコアが不合格でも仕事をもらえることさえある。この人になら小さい案件くらい任せても大丈夫とか。成長を見守りたいとか。今後に期待できるとか。いろいろ思いを巡らせるものだ。

トライアルの指示くらい守れ

instruction

指示に従うのも非常に大事だ。トライアルには、さまざまな説明があることも多い。いくつか例を挙げれば「ファイル名は変更しないでください」、「ですます調で訳してください」、「英数字は半角でお願いします」など。これらを無視するというのは、品質以前の問題だ。「トライアルの時点で指示を守れないのなら、今後も一緒に仕事をするのは難しい」と思われるのは当然だ。

トライアルは、トライアルを受け取った瞬間に始まる。翻訳はもちろんだが、指示をしっかり読み、理解し、それに沿って作業をしてやっと品質という話になる。指示を読みもせずに完成させたトライアルなど、翻訳の質が良くても、パートナーにはなれないと、ぼくは思う。

さいごに

さまざまなトライアル評価をやってきたからこそ、つくづく思うことがある。ぼくがベンダーだったら、トライアルなんてもうやらないだろう。書類審査やメールインタビューで翻訳者を見つけて、試用期間みたいな形でワード数の少ない実務案件をこなしていってもらえばいい。そして、その後続けるかどうかを決めればいいのだから。トライアルなんてどうにでもなる。言ってしまえば、替え玉し放題だ。こんなの採用基準になんてならない。

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