ゲーム翻訳のトライアルに落ちる3つの理由と対策

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ゲーム翻訳を受けるには、翻訳会社やゲーム会社がよこしてくるトライアルに合格しなければ始まらない。そこで、「なかなか受からない」、「何かコツはないの?」などの質問を受けることがしばしばある。そこで、このゲーム翻訳者歴10年のAiden先生が無料でアドバイスしてやろう。Aiden先生は数々のトライアル審査も引き受けてきた。どうだ、ありがたいだろう。

最初に言っておきたいことがある。トライアルに合格することを目標にしてはダメだ。大事なのは、合格した後も同じ品質を提供し続け、その後も仕事を受け続けることだ。

断っておくが、この基準はあくまでぼく(Aiden)個人のもので、どこかの翻訳会社にトライアル採点依頼を受けたときの採点基準を丸パクリしたものではない。ぼくが個人で翻訳者を雇うとして、そのときに使うであろう基準だ。だから、これを読んで、NDA(秘密保持契約)に違反するだとか、翻訳会社に迷惑だとか言って、ぼくを叩いたりしてはいけない。

ちなみに、ぼくはお金をもらってもトライアルの添削はしないので、その種のメールをよこさないようにお願いしたい。もちろんトライアルの採点や評価の外注は問題ないので、それについてはご連絡いただければ対応可能だ。

この記事では、誤字脱字・明らかな誤訳・指示に従わないなどの理由による不合格については触れない。それは一般的なトライアル合格 でいつか話そう。この記事では、ゲーム翻訳特有の要素に焦点を合わせるものとする。

リサーチ力の欠如

research

これはゲーム翻訳に限った話ではない。現在、世界最大のデータベースはGoogle師匠だ。昔の翻訳者には、図書館くらいしかソースがなかったが、現在はパソコンを開けばすぐに世界最大の情報源に誰でも無料でアクセスできる。だたし、アクセスできるだけでは意味がない。限られた時間で、適格なキーワードを駆使し、必要な情報を抽出して自分の言葉で表現できる能力が求められる

現代のゲームはものすごくリアルだ。たとえばレーシングゲーム。F1 2017F1 2018では、実際の選手や車種、メカニクスなど、すべて忠実に再現されている。だからこそ、ゲーマーだけでなく、F1ファンを唸らせるほどの完成度が確立されているのだ。このようなゲームの翻訳を行うとすれば、F1の知識はもちろん、現在のF1ドライバーの認識、エンジンやパーツといったレーシングカー全般に対する深い知識が必要だ。このような知識がなければ、トライアルに合格することは難しい。また、このようなゲームをプレイする人々は、F1レース好きなプレーヤーだ。彼らの知識も肥えている。変な訳を提供すれば、せっかくのハイクオリティグラフィックかつリアルさを追求した偉大なゲームが台無しになってしまう。

Googleを駆使して短時間で必要な情報を得ることができるスキル。これは翻訳者だけに必要な技術ではないが、これがなくては生き残れないというのは言うまでもない。

オタクさが足りない

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RPGやアクションゲームであれば、ちゃんとその世界を考えて、その世界観やキャラクターにあったスタイルで文章を書いているだろうか。

ファンタジーもののゲーム翻訳を考えてみよう。ファンタジーの世界には村がある。その村には村長と村人がいる。長老なら長老らしいゲームやアニメ特有のしゃべり方がある。「わしがこの村の長じゃ…。この村に外の人間がやってくるなど何年ぶりじゃろうか…」。人間以外のキャラクターなら?たとえばエルフはどうだろう。知的なエルフなら敬語がいい。戦闘タイプのエルフか、それならちょっと乱暴な口調がいいか。美しい女性のエルフならどうか…。そうやって想像力を働かせていく…。また、日本語特有の要素を利用する方法もある。たとえばSFの世界のロボットがキャラクター。どうやってロボットらしさを出すか。たとえばセリフをカタカナにしてみる。「イラッシャイマセ。ナニニシマショウカ」。カタカナに変えただけで、ロボットの雰囲気が出てくる。 こういった要素すべてを考慮して口調を考えなくてはならない。これは、小説などを読めば当たり前のことだ。だが、この当たり前のことを提供できなければゲーム翻訳者にはなれない

アイテムや武器の名前も創造力を働かせなければならない。多くの場合、これらの名前は直訳できない。訳さずに英語のままというリクエストがある場合もあるが、訳すとなれば頭を垂れなければならない。ゲームのジャンルにもよるが、武器の名前はそのゲーム特有のものも多い。つまり言語的な意味を持たない名前だ。これをカタカナで訳すのか、日本語にするのか、意訳するのか、改名するのか…。実務であれば、ベンダーやチームの翻訳者と話し合う必要がある。しかし、トライアルではその翻訳者のゲーム脳が試される。クリエイティブに訳さなければならない。

日本語がアルファベットになってソース言語に登場することもある。たとえば、Samurai Swordという武器があったとしよう。あなたならこれをどう訳すだろうか。もし、これを西洋風のゲームの世界で「侍の剣」や「侍の刀」と訳したのならオタクさが足りない。西洋人が「侍」と「刀」という言葉を使っていると意識してみる。すると、「サムライソード」や「サムライのカタナ」など、カタカナを使うほうが視覚的にしっくりくる。深い…。そう、ゲーム翻訳は奥が深いのだ。頭で世界を思い浮かべて、クリエイティブな表記でテキストを書く。それがゲーム翻訳なのだ

自分をゲーム翻訳者と呼ぶのなら、オタク脳を養わなければならない。案件を受けてから、すべてをGoogle師匠に頼るのでは時間が足りなくなる。たしかに、リサーチ力は必要だ。だが、トライアルに十分な時間があるからといって、調べ物をしながらノンビリやったトライアルなど合格したとしても、今後の仕事が続かないということになる。

トーンが合っていない

situation

ゲーム翻訳はIT翻訳ではない。「そんなの当たり前だよ」と思われるかもしれないが、トライアルにおいてトーンがゲームに一致していないということも多々ある。たとえば、幼児から小学校低学年向けのゲームアプリだとしよう。対象年齢を考慮し、どの程度の漢字と平仮名を使えばよいかを考える必要がある。

子犬のポチと一緒に町へお散歩へ出かけましょう
こいぬのポチといっしょにまちへおでかけしよう

どちらが子ども向けのアプリのスタイルとしてふさわしいだろうか。よく覚えておいてほしい。正しい翻訳を提供するだけがゲーム翻訳じゃない。「プレーヤーのことを考え、クリエイティブな思考で気を利かせた翻訳テキストを生み出す」それがゲーム翻訳者だ。単に誤訳のない翻訳を生み出すだけならAI翻訳で十分。人間様の力なんぞいらんのだ。ゲームメーカーが機械翻訳ではなく、人間の翻訳を選ぶ理由をよく考えよう。

じゃあ、どうすれば

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「ゲーム翻訳のトライアルは敷居が高いことはわかった。じゃあ、どうすれば合格できるようになるんだ?」。その答えは意外とシンプルだ。「仕事をまかせても大丈夫で、これからも長く協力していける人かどうか」。もし、あなたが翻訳会社やゲームメーカーであればどのような人を雇いたいか自問してみればいい。トライアルに3日も与えているのに、誤字脱字が目立ち、誤訳のあるテキストを送り返してくる翻訳者を雇いたいだろうか。ちょっとマニアックな用語だけど、少しリサーチすればわかるような用語に一般的な訳を当てて提出してくる人物に仕事を任せても大丈夫だろうか。キャラクターのイメージに合わない口調でセリフを訳してきたトランスレーターに料金を払って仕事をお願いしたいだろうか。「超イケてるゲームをつくった。さぁ、日本語の翻訳者を雇おう。どんな人にお願しようか」。そう考えれば、自ずと答えは見えてくるものだ。

基本的には、ベンダーも一般の消費者と変わらない。「良いものを可能な限り安価に手に入れたい」。「長期にわたり安定したサービスを提供してくれる人を雇いたい」。「すぐに連絡がとれる人と協力したい」。ほかにも、考えれば出てくるはずだ。翻訳はサービス業だ。

具体的な話に移ろう。ゲーム翻訳と一言でいっても、分野はさまざまだ。自分の翻訳分野を絞るように、ゲームの分野も絞ったほうが結果が出やすい。選び方は手っ取り早い方法でかまわない。自分が大好きなゲームがFPSならFPSを主に狙えばいいし、RPG好きならRPGを狙えばいい。ただし、1つだけだと、狭く成りすぎるので2、3個に絞るといいだろう。たとえば、RPG、アクション、球技スポーツとか。

また、ゲーム翻訳者としての適正すなわち思考力や創造力を鍛えることも重要だ。その方法とは、それは母国語で書かれたSFやファンタジー小説を読みまくることだ。この母国語というところが大事。その理由は、翻訳者の仕事はあくまで物書きだからだ。翻訳版はできれば避けた方がいい。翻訳版はもとの意味が失われていたり、日本語がおかしくなってたりすることが結構ある(もちろん、ぼくAiden Pearceのような優秀な一部の翻訳者は除く)。翻訳家の~先生のような名の通った人が、フリーランスの無名の翻訳者よりもできが悪いなんてこもともざらにある。 小説を読むべき理由は想像力を養うためだ。小説は映画やアニメ、ゲームとは違い、すべてを頭の中で描かなければならない。読書家になりなさい。本を読まない翻訳者など、ゲームで遊ばないプロゲーマーのようなものだ

トライアルはがんばりすぎるな
このページの最初でも書いたが、トライアルに受かることを考え過ぎてはダメだ。例えば、トライアルの納期が3日の300ワード程度のものを翻訳するのに、丸3日費やして、自分にとって完璧な訳を生み出して合格しても何の意味があろうか。合格したということは、その業者なりメーカーは、その合格した品質の提供を期待してくる。つまり、これから仕事を受け、もっと速いペースで同じ品質のものを提供し続けなければならない。300ワードなら、2時間もやれば十分すぎるくらいだ。実務ともなれば、300ワードなど1時間未満で終わらせなければフルタイムの翻訳者などやってられないのだから。

さいごに

この記事が駆け出しのゲーム翻訳者の訳に立ってくれればうれしく思う。ぼくが今日紹介した内容を当たり前にこなせるようになることが理想的だ。大変なのは合格した後だ。より速いペースで、より多くの量を翻訳し続けることが求められるのだから。余裕で合格。これぞ、翻訳者として生き残っていけるための条件だ。合格した後で、がっかりするような品質のものを納品すれば、信用を失い、次の仕事を見つけるのも苦労することになりかねない。

「こんなありがたい文書を書いていただいたのにお礼をしないなんて私の気が済まない」という方も多いことだろう。それなら仕方がない。メールを書いてくれれば、おひねりくらい受け取ってやるからご安心を。

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